近年、畜産業の環境影響の大きさが世界中で問題視されています。
飼料作物の生産のため森林伐採が行われていることや、家畜の糞尿から発生する温室効果ガスについて軽視できない状況となっています。
そこで動物性食品のかわりとなる、植物性たんぱく質や培養肉といった「代替肉」産業が注目を集めています。
日本では聞きなじみのない代替肉ですが、30年前からヨーロッパのスーパーマーケットに並んでいる代替肉の原料である「マイコプロテイン」について解説していきます。
マイコプロテインとは?
代替肉の新提案マイコプロテインとは
マイコプロテインの原料は「Fusarium venetum」という糸状菌で作られる代替肉の一種です。
この糸状菌をビールやパンを作るときと同じような発酵プロセスを用いて、マイコプロテインを製造しています。
さらにこのマイコプロテインを加工していき、多様な代替肉製品を作ることができます。
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マイコプロテインが作られた背景
人口増加の影響で将来的に食糧危機が起こるのではないか、という懸念から、1980年代にイギリスのクォーン社が開発しました。
当初は特許をもつクォーン社が開発を独占していましたが、特許の期限が切れた現在、多くの企業がマイコプロテインの研究・開発を進めています。
マイコプロテインのメリット
日本ではあまり知られていませんが、代替肉となるマイコプロテインのメリットは主に4つあります。
高たんぱく
100gのマイコプロテイン肉に含まれるたんぱく質は12~14gです。
クォーン社のマイコプロテインのひき肉を例にあげると、100gあたりのたんぱく質含有量は13gです。
これは同量のささみ肉の半分ほどですが、卵や豆腐よりも高い割合でたんぱく質を含んでいることがわかります。
つまり、マイコプロテインは大豆食品などの植物性たんぱく食品よりも、多くのたんぱく質を含んでいます。
食物繊維が豊富に含まれている
マイコプロテインには他の代替たんぱく食品と比べて多くの食物繊維が含まれています。
食物繊維には整腸作用だけでなく、血糖値上昇の抑制、血液中のコレステロール濃度の減少などさまざまな効果があります。
厚生労働省によると、日本人の食物繊維摂取量は減少傾向であり、1日の食生活にプラス3~4gを追加で摂取することが推奨されています。
先ほども例にあげたクォーン社のマイコプロテインのひき肉は、100gあたり7.5gの食物繊維が含まれています。
これは一般的に食物繊維が多いといわれている食品と比べても遜色ない含有量でしょう。
構造が肉と似ている
マイコプロテインの構造は肉類と似ているため、肉の食感を出すための加工が植物性代替肉と比べると少なくてすみます。
したがって、他代替肉と比較して製造コストを抑えることができるメリットがあります。
カーボンフットプリントが低い
カーボンフットプリントとは、その商品の原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される、温室効果ガスの排出量をCO2に換算してわかりやすく表示したものです。(参考:CFPについて)
クォーン社製のマイコプロテインを使用した商品は、通常の牛肉と比べるとこのカーボンフットプリントが1/40となります。
そのため環境にも非常に優しいたんぱく源といえるでしょう。
マイコプロテインのデメリット
4つのメリットを紹介しましたが、デメリットもあります。
次はマイコプロテインのデメリットを2つ紹介します。
味が独特
マイコプロテインは鶏肉に似た食感で、味も独特の酸味や匂いがあるようです。
クォーン社ではこのデメリットを感じさせないような、味付きのソーセージやステーキ肉の商品が発売されています。
日本では販売していない
マイコプロテインを使用した商品はほとんどがクォーン社製のものです。
しかし残念なことに、クォーン社の商品は日本展開がされておらず購入できません。
現在はアメリカ、ヨーロッパ、アフリカのスーパーで購入できます。
コロナ禍で海外へ行く機会が少なくなってしまいましたが、もし旅行など行けるようになったら挑戦してみたいですね。
マイコプロテインを使用した商品
マイコプロテイン肉を使用した商品を3つ紹介します。
MEAT FREE MINCE (Vegetarian Mince | Meat Free Mince | Quorn)
クォーン社が発売しているマイコプロテイン肉のひき肉です。
汎用性が高くさまざまな料理にアレンジすることができ、 クォーン社のHPにはアレンジレシピが70種以上載っています。
BRILLIANT BANGERS(Quorn Brilliant Bangers | Vegan Sausages | Quorn)
マイコプロテインを17%含んだヴィーガン対応のソーセージで、フライパンで6~8分ほど焼くだけなので手軽に食べられます。
スパイスたっぷりの食欲をそそる香りがします。
PEPPERED STEAKS(Quorn Vegetarian Peppered Steaks | Quorn)
マイコプロテインを81%含んだべジタリアン対応のステーキ肉です。
しし唐・青唐辛子・ブラックペッパーなどを使って味付けがされていて、食感もかなり肉に近いハンバーグのような商品です。
マイコプロテインを開発中の会社
Quorn社の特許の期限が切れて以降、さまざまな会社でマイコプロテインを使用した代替肉の開発が行われています。
今回はマイコプロテイン肉最大手のQuorn社をはじめとした企業3つを紹介します。
Vegetarian & Vegan Products, Meat Free Recipes & News | Quorn
1985年にイギリスの大手食品会社のマーロウ・フーズと大手パンメーカーのホービス、化学品メーカーのICIのジョイントベンチャーとして設立されました。
30年以上ヨーロッパでヴィーガン向けの代替肉を販売しています。
イギリスのガーディアン紙によると、2017年から市場規模は拡大しつづけており、2027年には数十億ドルまで成長するといわれています。
Mycorena | Fungi-based Alternative Protein for the Food Industry | Mycoprotein | Sweden
2017年に設立されたスウェーデンの会社です。
消費者への直接販売だけでなく、代替たんぱく市場の経験が浅い会社に自社の技術・専門知識を提供し、代替肉製品の生産のサポートをすることを目指しています。
肉を使わないベーコンなどの新商品の開発に取り組むとともに、取引先の会社がヴィーガンフードを製造するときに、マイコプロテイン製品を使用できるよう計画しています。
Nature’s Fynd – Fungi-Based Foods for Optimists
アメリカのシカゴを拠点とするスタートアップ企業です。
イエローストーン国立公園で採取した真菌を使うことで、炭素排出量の少ないマイコプロテインが製造できることを発見しました。
NATURE’S Fyndは、他の競合他社が大規模な工場を使用しているのと比べて、加熱室にある浅いトレイの上で真菌の栽培をしているので、都市部での製造に適しています。
肉なしのパテや乳製品フリーのクリームチーズなどを販売しており、2021年7月にはマイコプロテイン市場では最大となる2億5000万ポンドの資金を調達するなど今後の商品開発に期待が集まっています。
まとめ
人工肉の原料となるマイコプロテインについてメリットやデメリット、おすすめ商品や今後期待されている企業の紹介などしてきました。
サステナブルな肉として注目を集めているマイコプロテインは、栄養面でもメリットが多数あります。
日本で販売される日が待ち遠しいですね。