太古の昔から人類にとって貴重な栄養資源でもあり、昆虫食は、今よりもっと身近な存在でした。世界各地で食べられ、日本でもその歴史は深いです。
この記事ではそんな「昆虫食」を、私たち人間にとっていかに身近な存在だったのか。歴史からひもとき、わかりやすく解説します。
昆虫食とは
昆虫食とは、昆虫を食べることです。
「ゲテモノ」「気持ち悪い」などのネガティブなイメージを持たれがちな昆虫食。
昨今、「食糧危機を救う」「高たんぱくなスーパーフード」などと注目され、SDGsの観点からも研究開発が進んでいます。
昆虫食は未来の持続可能な食習慣として注目を浴びています。この記事では、昆虫食がなぜ日本で注目されているのか、優れた環境性や食糧供給の安定性などのメリットを探求します。 昆虫食とは何か? 昆虫食とは、昆虫を食材として利用する食習慣のことで[…]
昆虫食の歴史は深い
原始以来、昆虫は海を除くあらゆる地球環境に生息しており、人間の生活に最も身近で関係の深い生物のひとつです。
中国では、約3000年前の周の時代からセミやハチ、アリなどが食料として利用されていました。現在でも、100種以上の昆虫が日常的に食されてます。
また、3500年前の古代ギリシャ・ローマ時代でも、バッタやセミ、カミキリムシが食べられていた記録が残されています。
このように、昆虫は古代より貴重な栄養源としてみなされ、食材として利用されてきました。
世界広く昆虫食は普及していた
現在も、昆虫は貴重なたんぱく源として世界中で食べられています。
特に東南アジアやアフリカ、南米などの熱帯・亜熱帯地域では、昆虫の種数も多いことから、昆虫食の文化が現在も残っています。
市場や露店では、エビやニワトリと一緒に、イナゴやコオロギが食材として売られています。屋台では、調理された昆虫が並んでおり、その場で食べることができます。
また、オーストラリア・ニューギニアでは先住民のアボリジニーが貴重な栄養源として昆虫を食べています。
このように、現在も東南アジアやオーストラリアなどの幅広い地域で昆虫は食べられています。
昆虫食の日本における扱い
現在、日本ではあまり昆虫食の文化は残っていません。ハチの子やイナゴの佃煮などを食べる習慣が、一部の地域で残っている程度です。
明治以降の食文化の欧米化や衛生観念の変化から、昆虫=不衛生との認識が広まったためです。
特に、伝染病の媒介となるハエや蚊などの不衛生な昆虫によって、昆虫食全体のイメージが悪くなってしまいました。
また、戦後の急激な経済発展により、海外から安く牛肉が輸入されるようになりました。
美味しくたんぱく質を摂取できる輸入牛肉の存在が、日本における昆虫食文化をさらに衰退させました。
2013年に国際連合食糧農業機関(FAO)が発表した報告書で、世界の人口増加で深刻な食糧危機が訪れると予測されました。それを受け各国で昆虫食に注目が集まったように、日本でも昆虫食を扱うスタートアップ企業が少しずつ出てきたのです。
日本における昆虫食の歴史
日本でも古くは狩猟採集生活をしていた時代から昆虫が食べられてきました。
縄文時代の遺物などの調査から、縄文人が昆虫を食していたことが明らかになっています。
中国から稲作の伝播とともに、稲の害虫であるイナゴの仲間を害虫防除と栄養補給の目的で食用に利用してきました。
また、平安時代に書かれた現存最古の薬物辞典「本草和名(ほんぞうわみょう)」には、イナゴを食べていた記述があります。
中国から伝わった漢方薬には昆虫が使われていることから、薬用としても様々な昆虫が食されていたのでしょう。
江戸時代にはイナゴを佃煮にしたり、串に刺してかば焼きにして食していたという文献も残っています。
大正時代には昆虫学者・三宅恒方により全国的な昆虫食に関する調査が行われました。(食用乃薬用昆虫に関する調査)
そのなかで日本各地で食用・薬用として昆虫が日常的に食材として利用されていたことがわかります。
明治以降、生活スタイルや食文化も欧米化が急速に進み、日本人の味覚や嗜好も変化してきました。その結果、食材として昆虫を利用する機会が激減していったのです。
日本における昆虫食の地域性
日本で広く食されている昆虫は、カイコやイナゴ、ハチなどです。
稲作や養蚕の伝播とともに日本全国に広がっていきました。
イナゴは北海道を除く、ほぼ日本全土で食べられています。
カイコは宮城・福島・新潟以南から鹿児島までで養蚕地域とほぼ同じです。
中部地方や長野では他地域よりも、食べられていた昆虫の種類が多いのが特徴です。
信州は周りを山に囲まれ、冬は他地域との往来が難しい地理的条件があります。
外部からの食料供給が難しかったので、近年まで昆虫がたんぱく源の補給に重宝されてきました。