近年、畜産という過程を伴わない持続可能なタンパク質(代替肉・培養肉)の市場が急成長しています。
今後、私たちの食卓に並ぶ日もそう遠くはない培養肉についてまとめましたので、ぜひ参考にして下さい。
培養肉とは
培養肉とは、代替肉の1つで動物から採取した細胞を人工的に培養した肉を指します。
培養肉のメリットは以下の通りです。
- 少量の細胞から作るため、食肉となる動物の犠牲を減らすことができる。
- 気候変動に左右されずに生産できるため、安定供給が可能。
- 培養(細胞、組織)は無菌状態で実施されるため、食中毒などの危険が少ない。
- 従来の工場型畜産業に比べ、環境に配慮されている。(温室効果ガス削減等)
このように培養肉を活用することで様々な問題を解決することができます。
このことから昨今、培養肉への期待が高まってきています。
培養肉とは、動物から採取した細胞を人工培養により増やし、組織形成することにより作られる新しい食肉だ。 昨今、牛や鶏などの細胞を培養して作られる研究室生まれの肉が食卓を囲む日は近づきつつある。 ここでは、培養肉についてや注目され[…]
培養肉が必要とされる背景
培養肉が必要とされている背景を一言で説明すると、「人口増加に伴う食肉の供給不足の解消」になります。
理由は、従来の工場型畜産業を拡大するよりも代替肉を活用したほうが食肉の供給という観点から上述のようなメリットがあるためです。
人口増加に伴う食肉の供給不足の解消について具体的に解説していきます。
人口増加に伴う食肉の供給不足
世界人口の推移(JOICFPより引用)
世界の人口は2021年時点で約79億人、2050年には約97億人になるといわれています。
人口増加に伴い食肉の需要は2010年~2050年までに1.7倍、特に発展途上国では2倍になると予想されています。
要するに「2050年までに世界中の食肉生産量を現在の約2億7000万トンから約4億7000万トンへ増産する必要がある」ということになります。
こういったことから、現在の工場型畜産業だけでは食肉の供給不足になると言われています。
食肉の供給不足の解決策
この食肉の供給不足に対する解決策としては2つ挙げられます。
- 工場型畜産業の拡大
- 代替肉の活用
工場型畜産業の拡大
工場型畜産業の拡大は、土地を拡大して家畜を増やして食肉を増やしていくやり方になります。
では、家畜を増やせばいいのかというと、それほど単純ではありません。
従来の工業型畜産業は、その持続不可能な生産形態が問題視されています。
具体的にどのような問題があるか解説します。
温暖化問題
畜産業を拡大していくとなった場合、地球温暖化観点で以下の懸念事項があります。
- 森林伐採
食肉の供給量を増やすためには家畜の量を増やす必要があります。
しかし、土地の大きさを変えずに家畜の量を増やしても、質の良い家畜は育ちません。そのため、土地を拡大していく必要があります。
土地を拡大するためには当然、森林を伐採して新たに土地を増やしていく必要があります。
森林伐採をすることで、二酸化炭素を酸素に変えられず、地球温暖化につながります。
- 二酸化炭素・メタンの排出
畜産業を拡大していくことは、より多くの家畜を工場で処理をしていくことになります。
工場で処理する家畜が多くなればなるほど二酸化炭素の排出も増えていきます。
また、畜産動物のうち牛は成長過程で多くのメタンを排出します。
このメタンは、二酸化炭素の25倍もの温室効果をもつため、畜産動物が増えることによる地球温暖化の影響が危惧されています。
水問題
畜産業を拡大してくとなった場合、水問題にも懸念事項があります。
- 水の大量消費
大量の肉を生産するためには、家畜の飼育穀物を育てるために必要な水も大量に必要です。
1kgのトウモロコシを生産するのに1,800リットルの水が必要と言われています。
また、家畜はこのような穀物を大量に消費しながら育つため、牛肉1kgを生産するのに約20,000倍もの水が必要と言われています。
人間が利用可能な地球の淡水は多くありません。現在その7割が食料生産に使用されています。
こういったことから畜産業を拡大していくと、それに応じて水の使用料も増えていきます。
そうなった場合、人間が飲み水に使用する量が減っていくことになります。
- 水質汚染
家畜を育てる際に、家畜の排泄物による水質汚染の問題もあります。
これは単純に、畜産業の拡大により家畜の量も増えるため、それに応じて家畜からの排泄物が増えることによる水質汚染が広がっていくということです。
代替肉の活用
上述の通り、従来の工場型畜産業の場合、環境問題につながってしまいます。
そのため、代替肉の活用が進められることになりました。
代替肉は植物由来の食肉と培養肉を指します。
違いとしては、植物由来の食肉は植物肉がベースのため、本物の肉ではありません。
一方、培養肉は動物から細胞を取り、培養するため、本物の肉になります。
培養肉は、畜産肉に比べて以下のことがわかっております。
- 温室効果ガスを78~96%削減可能
- 使用する土地は99%削減可能
- 使用する水は82~96%削減可能
このことからわかるように、人口増加に伴う食肉の供給不足の解消をするために培養肉が必要とされています。
日本における培養肉の現状
日本では諸外国に比べて規模はまだ小さいですが、培養肉の参入が広まってきています。
例えば、インテグリカルチャーや日本ハム、日清食品といった企業が培養肉に関する研究・開発を進めております。
これらの企業に関する具体的な取り組みに関しては、後ほど紹介したいと思います。
また、日本人の培養肉への意識も少しずつ変わってきています。
2020年12月に特定非営利活動法人日本細胞農業協会が行った調査によると、「培養肉」を知っている日本人は約4割。回答者の約3割が普通のお肉より高い金額を出してでも培養肉を試してみたいと考えています。また、培養肉のイメージを問う質問では「知らなかった」という回答が約5割と最も多く、まだ認知度は上がっているものの、まだまだそこまで高くないのが現状です。
日本の培養肉に対する取り組み
日本でも培養肉に関する様々な取り組みが実施されています。
2019年7月:インティグリカルチャー株式会社は日本ハム株式会社と共同で、動物細胞の大量培養による食品生産に向けて基盤技術開発を始めると発表
2019年3月:培養肉の「ステーキ肉」を日清食品と東京大学生産技術研究所が共同開発。
2020年1月:培養肉普及を目的とした企業連合(日清食品、日本ハム、ハウス食品等の食品大手、開発研究機関等)が設立。
上記の内容は取り組みの一部でありますが、少しずつ培養肉に関する研究開発が進められています。
日本の培養肉企業
ここからは、日本の培養肉企業について紹介していきたいと思います。
今回、紹介する企業は下記の3つです。
- インテグリカルチャー株式会社
- 日清食品株式会社
- NUProtein株式会社
それでは1つずつ紹介していきます。
インテグリカルチャー
インテグリカルチャーは、2015年に創業された細胞培養の研究・開発を行っている企業です。
インテグリカルチャーの主な製品として、「CulNet System(カルネットシステム)」という特許技術を使った培養を可能とする製品があります。
CulNet Systemは、動物体内を模した環境を構築することで、細胞培養の高コストの要因出あった成長因子の外部添付を不要とし、コスメから食材まで様々な利用範囲をもつ細胞を安価に大量に培養できる技術のことです。
また、すでに「培養フォアグラ」を製造しており、年内には一部レストランに提供する予定です。22年度の夏頃には8kg/月の生産ラインの構築し、安定供給を目指しているとのこと。
日清食品
日清食品は、2025年までに「厚さ2cmの培養肉のステーキ」の開発を目指しています。
培養肉のステーキは、筋組織を立体構造にするため技術的なハードルが高く発展途上となります。
日清食品は、東京大学と共同でこの培養肉のステーキの研究開発を進めており、2024年度中に基礎技術の確立を目指しています。
また、日清食品はすでに世界初となるサイコロステーキ状の培養肉(1.0cm×0.8cm×0.7cm)の作製に成功しています。
NUProtein
NUProteinhは、「成長因子合成技術」を強みとしている企業です。
成長因子合成技術とは、原料入手の容易さ、植物由来の安全性、リードタイムの短縮化です。
NUProteinで使用している原料は、独自の塩基配列による遺伝子の設計図である「mRNA」と製粉所の副産物から製造した「小麦胚芽抽出液」によって遺伝巣を複製・増幅してタンパク質にすることが可能です。
今までは、1グラムあたり3000万円もする動物細胞や大腸菌、酵母などが原料となっていました。
しかし、NUProteinが使用している「小麦胚芽抽出液」は1グラム10万円と約300分の1になります。
また、細胞増殖に必要な成長因子の量は、細胞活性を高める技術により、動物細胞を使って合成した場合の10分の1にすることができるようになります。
NUProteinhはこれらの技術革新によって、製造コストを従来よりも3000分の1に下げることができました。
単純計算で、4万5千円のコストがかかっていたビーフパティを1枚15円で作れることに相当します。
まとめ
今回は、日本における培養肉について紹介しました。
早ければ5年以内に培養肉のステーキを食べられる日も来るかもしれないと思うと、楽しみですね。今後も培養肉の今後の動向に注目してみてください!