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植物工場市場規模将来性の画像

植物工場の市場規模は?将来性について分析

「野菜が高い…」最近、そう思うことが増えていませんか?

私たちの食卓に彩りを添えてくれる野菜は、天候不順や虫害などの影響で、すぐに値上がりしてしまいます。とくに最近は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「巣ごもり需要」も価格高騰に拍車をかけています。レタスの価格が昨年の4倍にまで値上がりした例も、記憶に新しいでしょう。

こうした、とくに食べ盛りのお子さんがいる家庭にとってやりくりが大変な状況は、「植物工場」の存在によって解決されるかもしれません。今回は、近未来的な「植物工場」についての記事です。

これを読むだけで、植物の生育に必要な「光」を人工的に制御する「植物工場」について詳しくなれるはず。

植物工場での栽培は、生産者にとってもメリットが多く将来性もあるため、今後生産量が増加していくと予想されます。あなたの食卓に、植物工場でつくられた野菜がたくさん並ぶ日も近いでしょう。

植物工場とは

ビニールハウスの画像

農林水産省によると、「植物工場とは施設内で植物の生育環境(光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、養分、水分等)を制御して栽培を行う施設園芸のうち、環境及び生育のモニタリングを基礎として、高度な環境制御と生育予測を行うことにより、野菜等の植物の周年・計画生産が可能な栽培施設」のことです。

つまり、植物工場は、温度や湿度、光源などをコントロールした空間で、計画的に野菜などの植物を生産する施設です。。アメリカが原子力潜水艦の中でも野菜を栽培したい、と研究を始めたのが植物工場の始まりだとされています。日本には、1970年代にオランダからその技術がもたらされました。

そのような歴史をもつ植物工場には、大きく分けて、太陽の光を全く使用しない「完全人工光型」と、太陽光と人工光を併用する「太陽光併用型」があります。

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植物工場とは アイキャッチ画像

完全人工光型

LEDなど人工的な光を光源として植物を育てるのが、完全人工光型の植物工場です。

自然条件に左右されない、ビルの中など閉鎖的な空間で実施されるのが特徴です。

「人工光」と聞くと、「太陽光ではないのに、植物が育つの?」と疑問に思われるかもしれません。

しかし、光合成に必要なのは、太陽光線の中でも波長の長い「青い光」や「赤い光」。これらと同じ波長をもった光を照射すれば、LEDを光源としても、植物はすくすくと成長していきます。

なお、完全人工光型植物工場で主に育てられているのは、レタスやほうれん草などの葉物野菜です。

省スペースで大量の野菜を収穫することができるため、土地が限られており、また流通量も多い都市部に多くみられるようです。

太陽光併用型

完全人工光型と異なり、主として太陽からの光を用いるのが「太陽光併用型」の植物工場。ビニールハウスでの、トマトやイチゴの栽培がわかりやすい事例です。

LEDなどの人工光は、曇りや雨の日、冬季など、日照時間が短い場合にのみ用いられます。

植物に太陽の光をまんべんなく当てる必要があるため、栽培面積を増やすには垂直方向ではなく、水平方向に場所を確保していかなければなりません。

こうした特徴から、太陽光併用型は、土地単価が安い地方に多く見られる植物工場の仕組みとなっています。

植物工場のメリット

これまでの栽培方法と比較して、植物工場にはどのようなメリットがあるのでしょうか?具体的には、以下の6つです。

  1. 季節を問わず収穫できる
  2. 工場あたりの人件費を削減することができる
  3. 収穫量が多い
  4. 土壌がない場所でも育てることができる
  5. 土や虫による悪影響を考慮しなくてよい
  6. 食品がもつ栄養素・機能性を増加させることができる

いずれの項目も、安全で安定した食料供給を可能にします。一つずつ見ていきましょう。

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季節を問わず収穫できる

いちごの写真

気温や湿度、日照時間などを自在にコントロールできる植物工場では、疑似的な「旬」を好きなように生み出すことができます。

例えば、クリスマスケーキ用に使われ、冬に需要が高まるいちごは、春から初夏にかけてが本来の「旬」。

しかし、植物工場内で疑似的に春や初夏の気候を再現することで、冬であっても大量のいちごを流通させることができるのです。

工場あたりの人件費を削減することができる

とくに完全人工光型の植物工場は、コンピュータによって生育状況を細かくモニタリングできるため、大規模な工場であってもそれほど人員を必要としません。

また、露地栽培では経験やカンに基づいた豊富な知識が必要とされますが、工場栽培ではそれをコンピュータが担ってくれます。

そのため、農業に携わってこなかった人でも大規模な栽培が可能となり、工場の数が増えれば雇用の促進につながると期待されています。

収穫量が多い

省スペースで大量の野菜を育てることができるため、収穫量の増加が見込めます。

特に完全人工光型の植物工場では、栽培設備を縦に2段、3段と積み上げることで、同じ面積で露地栽培を行った場合と比較して2倍、3倍の収穫を得ることができます。

こうした特徴から、業務用野菜として盛んに流通しているようです。毎日、3万株以上のレタスを出荷していく工場もあるのだとか。

土壌がない場所でも育てることができる

植物工場では主に、土の代わりに養分を溶かした培養液を用いた、水耕栽培が行われています。

そのため、農業用地を確保するのが難しい都市部、あるいは土地が痩せており、農業に向かないような場所であっても食料を供給できます。

今後、アフリカなど貧困にあえぐ人が多かったり、土壌の質がよくなかったりする地域において、植物工場が食料安全保障に貢献することが求められるでしょう。

土や虫による悪影響を考慮しなくてよい

水耕栽培がメインの植物工場では、土壌に起因する病気や虫害に悩む必要がありません。

土を用いた植物栽培で起こる、代表的なトラブルが「連作障害」です。

これは、同じ作物を育て続けることで、土壌の養分が偏ってしまい発生するもので、生育が極端に悪化したり、枯れやすくなったりする現象です。

同じ種類のみならず、ナスとトマトのように、同じ科に属する野菜を連続して育てる場合にも起こる可能性があります。

また、土をすみかにする虫や細菌類による病気・枯れ・虫食いなどの被害もなくなります。そのため、損失が少なく、また廃棄する食品を削減できます。

食品がもつ栄養素・機能性を増加させることができる

コントロールできない要因が少ないため、植物工場では、近年の健康意識の高まりに対応した野菜を簡単に開発することができます。

糖尿病の人でも食べられる、低カリウムのレタス、マグネシウムや亜鉛を増やした、妊婦にぴったりの野菜、新型インフルエンザワクチンを含んだ野菜(アメリカで開発中)などがあります。

植物工場の将来性

植物工場の将来性に関するイメージ画像

ここからは、植物工場の将来性について見ていきましょう。

実は、最新技術をふんだんに使う植物工場は、建設費・維持費が非常に高いことが知られています。

​​工場の大きさ・空き施設を使うかゼロから建設するかなどによっても変わりますが、ビジネスを始めるまでに1〜3億円程度の資金が必要です。

その上、光熱費や修繕費など、毎年のランニングコストも高くつきます。

事実、露地栽培レタスとの価格競争に敗れ、大企業である東芝さえも2016年に植物工場から撤退しています。

確かに、コストに見合った利益が上がっていないのが現状です。

しかし、今後の技術革新・栽培方法の改善などにより、植物工場市場が拡大していく可能性は十分にあります。それを示す事実が、①市場規模の拡大と②自動化システムの普及です。

市場規模推移

矢野経済研究所の調査によると、国内の植物工場の市場規模は年々増加しており、2024年度には、360億円となる見込みです。

これは、2019年度の市場規模の4倍以上で、いかに人々の注目を集めつつあるかがわかるでしょう。

同研究所では、2020年はじめから猛威をふるい続けている新型コロナウイルスも、市場拡大に一役買ったと分析しています。

人が頻繁に出入りせずとも、コンピュータが生育状況などを管理してくれますし、いざ人が施設内に入る際も、菌を持ち込まないよう徹底した消毒が行われます。

こうした植物工場のあり方が、「安心」「安全」という評価につながり、一般市民の間でも関心が高まっています。

植物工場市場の拡大は、国内だけに限りません。

グローバルインフォメーションの調査によると、世界でもその規模は拡大しており、2021年は1,218億米ドルであり、2026年には1,725億米ドルに達すると予測されています。

自動化システムの普及

工場の大規模化に伴って、次第に工程も増えていきます。中でも、「栽培パネルを栽培棚から出し入れする」作業が手間になっているようです。

それを解決するには、①人員を増やす ②自動化する のどちらかの手立てが有効でしょう。

前者を選択すると、人件費がかさみますし、細菌や病原菌が持ち込まれるリスクも上昇します。

そのため、省電力・低コストを実現すべく自動化が進められています。さらに技術が進めば、私たちは最小の労力で、最大の収穫を得られるようになるでしょう。

おわりに

小さな場所で、効率よく野菜を栽培することができる、植物工場。現状ではメリットばかりとは言えませんが、市場が拡大し、植物工場で作られた野菜や果物を私たちが日常的に口にする日も、そう遠くないはず。

私たちはいま、まさに時代の変わり目を生きているのです。

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