「私たちは、米に価値をつけ日本のシャンパン需要を日本酒に振り向かせることで地域経済に還元します。地域経済を復活させることで、貧困の解消と子供たちの教育・食育につながり持続可能な世界になると信じています。」
そう語るのは、NOZOMI JAPAN 創業者の白井 良(以下、白井)だ。
フードテックをよく知る読者であればご存知のNext Meatsの創業者でもある。
2020年「地球を終わらせない」理念をもとにNext Meatsを創業し、7ヶ月で時価総額479億円を達成させたフードテック界のシリアル・アントレプレナーだ。
持続可能な未来のため、白井がフードテックとして次に目をつけたのは、日本酒醸造技術。
日本酒は、デンプンを糖に分解すること(糖化)ともろみの糖をアルコールに変えること(発酵)を同時に行うことで作られる。
この糖化と発酵を同時に行うことは、ワインやビールといった他のアルコール飲料では見られない醸造方法で、高度な知識や経験による絶妙な調和が必要だ。
「日本酒の醸造技術は、世界に誇れるフードテックです。私はこの日本の文化と伝統を世界に広めることに大きな可能性を感じています。」
しかし、国内の日本酒の酒造所は、日本酒の需要低下や造り手の後継者不足により、年々減少傾向にある。つまり、味わうことのできなくなってしまった銘柄が増えている現状にある。
白井らは、日本酒醸造技術に産業技術総合研究所(以下、産総研)のもつバイオテクノロジーをかけ合わせることで、この問題の解決に挑戦している。
具体的には、日本酒ビッグデータの構築による日本酒製造のデジタル化だ。日本酒の「甘口」「辛口」「すっきり」「フルーティー」などの私たちの舌で感じる味わいを数値化し、データベースとして蓄積することを目指す。
今までの高度な知識や経験により成り立っていた日本酒製造から、データを活用した日本酒製造へ変革することで、日本酒文化の伝承や日本酒の量産化につなげる狙いだ。
味わいの数値化には、産総研が開発した「ケミカルタン(化学舌)」と呼ばれるバイオテクノロジー技術を活用している。ヒトが味を感じる仕組みを模倣した技術だ。
舌上の味覚センサーのような働きをする蛍光ポリマーと、脳のような働きをする機械学習とを組み合わせることでヒトが味を感じる仕組みを模倣し、味わいを数値化することに成功した。
ケミカルタンによる解析と、NOZOMI JAPANの杜氏や農学博士らによる官能試験の結果とを組み合わせることで日本酒ビックデータを構築する。
日本酒製造のデジタル化は、廃業する酒造の銘柄を別の酒造に承継することができるようになり、日本酒文化の伝承につながる。
また、白井らが採用した自社で蔵をもたずに日本酒を製造する「ファブレス方式」では、日本酒製造のデジタル化が重要だ。
「いくつもある酒造で日本酒の味・品質を統一しつつ、安定的に大量生産する秘策が、日本酒のビックデータ構築です。
製造工程をデジタル化することで、日本中の酒蔵で統一した品質の日本酒を3,000万本生産が可能です。」
白井らの今後の展望
白井らの目標は、1兆円産業であるシャンパンの、オルタナティブとなる日本酒(オルタナティブシャンパン)を作ることだ。
「日本のシャンパンの輸入量は世界第3位です。つまり、フランスに巨額な資金を支払っている状況です。
一方で、米は余っており、30年間で価値が約半分に下がってしまい、農家が疲弊しています。米でシャンパンを超えるものを作り、シャンパン市場の10%(市場規模:1000億)をリプレイスすることで、地域経済が活性化し経済不均衡が解消されると思っています。
そして、子供たちの栄養摂取や教育などにまわっていくことで、社会が良くなっていく。
それが「世界をHAKKOさせる。」という理念に繋がるのです。」
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