近年、海洋資源の過剰搾取が問題視され、「代替魚」の開発・販売が盛んになっています。
代替魚とは、本物の魚を用いずに味や見た目・食感などを本物に限りなく似せて作られた食品です。
大豆ミートなどの代替肉とは異なり日本での流通量が少ない代替魚だが、世界各国で研究が急速に勧められ期待されている食品です。
ここでは、代替魚の注目される背景から取り扱っている会社まで幅広く解説します。
また代替肉についてはこちらの記事で解説しています。
今、世界各国で流行の兆しを見せはじめているのが、代替肉だ。 代替肉は、地球環境に優しく、健康的であるとして、急速にその市場を拡大しつつある。 まだ日本ではあまり馴染みのない代替肉であるが、アメリカでは代替肉を製造ずる企業が上場[…]
代替魚とは
代替魚は、培養魚と植物性代替魚の2種類あります。
味や見た目・食感など、本物に限りなく近いよう作られた代替魚が商品化されてきており、環境へ配慮した取り組みをしている方や、ヴィーガンの方から注目を集めています。
日本ではまだ聞きなじみのない代替魚について詳しく説明していきます。
培養魚とは
培養魚とは、簡単にいうと、魚の細胞を取り出して培養容器で細胞を増やして作られた魚の切り身のことです。
アメリカやヨーロッパを中心に、商品化に向けて研究が進められています。
「BlueNalu(米)」では世界初の自社工場を建設し、培養水産物の生産やレストランでのテスト販売を開始する予定です。
このように培養魚は、完全に工場で作られる水産物のことをいいます。
培養肉とは、動物から採取した細胞を人工培養により増やし、組織形成することにより作られる新しい食肉だ。 昨今、牛や鶏などの細胞を培養して作られる研究室生まれの肉が食卓を囲む日は近づきつつある。 ここでは、培養肉についてや注目され[…]
培養魚の作成方法
培養魚の作り方について簡単に説明します。
- 魚から細胞を取り出します。
- 細胞の合成を行う装置に細胞を入れます
- 培養液を加えます
- 適切なpH、浸透圧、温度を維持します
- 細胞が培養され、培養魚肉の完成です
魚を稚魚から成魚まで育てようとすると、早くても1年ほどかかります。
しかし、細胞培養では2ヵ月で10尾分の切り身を製造できます。
実用化にむけた課題としては、使用する培養液のコストをどれだけ抑えられるか、細胞をどのように抽出するかなどがあります。
植物性代替魚とは
植物性代替魚とは生鮮魚のかわりに、植物性の原料からつくられた水産物のことです。
独自の技術を使って本物そっくりの味や食感を再現した植物性シーフードが、世界ではたくさん発売されています。
アメリカで植物性代替魚の開発・販売をしているGood Catchでは、えんどう豆・大豆・ひよこ豆など6種類の豆からツナやフィッシュパテを作り、欧米を中心に販売しています。
このように、植物性代替魚とは、100%植物性の原料から作られた魚のことをいいます。
代替魚が注目される背景
地球温暖化や環境破壊といった環境問題や人口増加などの問題から、代替魚が注目され始めています。
主な問題点について3点説明します。
人口増加にともなう、水産物消費量の増加
世界的な人口増加のため、世界の水産資源の消費量は年々増加しています。
国連の報告によると世界人口は現在77億人ですが、まもなく約85億人に到達し、さらに2050年には100億人に到達するといわれています。
魚介類の消費量は9574万トン(2000年)から1億5044万トン(2018年)と著しく増加しており、今後も水産物消費量は増加していくでしょう。
海洋資源の過剰搾取
今、海洋水産資源は存続の危機に陥っています。
FAO(国連食糧農業機関)の世界漁業・養殖業白書(2018)」によると持続不可能な状態で漁獲されている海洋資源の割合は、、1974年の10%から2015年には33.1%に大きく増加しています。
また、2015年時点で漁獲量の生産に余裕がある状態とされる割合はたったの7%しかありません。
つまり存続可能な状態の水産資源は減少しており、このままでは世界中の水産物が枯渇してしまうおそれがあります。
養殖業による環境への悪影響
農林水産省によると、日本での漁業生産のうち養殖業が占める割合は約22%と、減少しつつある漁獲量を補っています。
しかし、養殖業が環境に与える悪影響は無視してはいけません。
世界各地で、養殖場を作ることは沿岸周辺の環境破壊へとつながります。
その理由は3つあります。
- 養殖場の場所を確保するために、干潟やマングローブなどの自然環境が失われる
- 養殖場から出る排水や廃棄物が環境汚染を引き起こしたり、周辺の土地・河川・海の環境を変えてしまう
- 養殖魚を育てる餌が天然魚であることも多い。
身近な例をあげると、養殖マグロは1kgにつき13~15kgの餌魚が必要となります。
そのため養殖場が拡大すれば、水産資源の乱獲へとつながってしまいます。
このように、水産物消費量の増加と、それにともなった水産資源の枯渇、養殖業から招かれる環境破壊問題への解決策として、代替魚の開発が世界各地で行われています。
代替魚のメリット
代替魚が注目されている背景としてあげたように、過剰漁獲を避けられる点や、海洋生態系・環境破壊への影響がない点が代替魚の大きなメリットです。
それに加えて代替魚を活用するメリット3つを説明します。
培養魚は廃棄部分がない
培養魚を作るには、魚から細胞を取り出して専用の機械を使用して培養し切り身を作ります。
そのため、魚を捌いて食用とするときに通常発生する廃棄部分がなく、100%可食部の切り身のみを作りだすことができます。
培養魚は高価な魚も変わらず生産できる
対象の魚の細胞を取り出して培養できれば、高価な魚であっても種を問わず、培養魚として生産することができます。
香港の企業「アバント・ミーツ」は培養魚の商品化を目指し、クエやキンメダイの仲間も候補にあげています。
植物性由来の海産品は常温保存可能
植物性代替魚であれば常温保存が可能となります。
これにより、腐りにくく、良質なたんぱく源となる備蓄食料としても代替魚を活用できます。
代替魚のデメリット
環境保護の面などメリットはたくさんある代替魚ですが、デメリットもあります。
以下に代替魚のデメリット3つをあげました。
代替魚は生産が少ない
Good Food Instituteによると、アメリカの植物性代替食品の市場は過去2年間で43%増加し70億ドルに達しました。
2020年の植物性代替魚の売り上げは1200万ドルと前年比で23%増加しています。
しかし、これは植物性代替食品全体の割合でいうと1%に満たない数値となっており、まだまだこの市場の規模が小さく伸びしろがあることがうかがえます。(参考サイト:GFI)
日本では、植物性代替魚を販売している企業はごくわずかで流通量も少なく、手軽に手に入れることが難しい状況です。
それに加えて、培養魚は大量生産されておらず、日本では手に入れることはまだできません。
現状コスト高い(培養肉、植物性代替肉それぞれいくら?)
流通が少ない植物性代替魚ですが、日本で購入できる商品を例として2つあげます。
現時点では、植物性代替魚肉は本物の魚よりも1.3倍以上の値段となってしまいコストの高さがわかります。
本物 | 植物性代替魚肉 | |
ツナ缶 | 267円/缶 はごろもフーズ | 390円/缶 NEXT MEATS |
マグロ、サーモン、イカの切り身 | 760円/240g ライフコーポレーション | 990円/230g あづまフーズ |
さらに植物性代替魚よりも流通量の多い植物性代替肉の価格を比較していきます。
なお、培養肉はイスラエルやアメリカでは流通量が拡大していますが、日本ではまだ小売店での販売はされていません。
本物 /100g | 植物性代替肉 /100g | |
ひき肉 | 246円 ライフコーポレーション | 204円 三育フーズ |
ハンバーグ | 175円 ライフコーポレーション | 201円 大塚食品 |
チキンナゲット | 89円 ライフコーポレーション | 150円 グリーンカルチャー |
培養肉の消費者の受容性はまだ低い
培養肉は今までにない方法で作成されるまったく新しい食品のため、どれくらい日本で受け入れられるのかは未知数です。
そのため、日本で培養肉の研究を行っている日清食品グループが、日本初となる「培養肉に関する大規模意識調査」を行いました。
その結果によると、「培養肉を試しに食べてみたい」という回答者は3割弱にとどまりました。
しかし、培養肉について聞いたことある回答者に、培養肉が食糧危機の解決策となるなどの情報開示を行うと、「培養肉を試しに食べてみたい」回答者が5割まで増加しました。
この結果からも、日本における培養肉の受容性は高くないですが、適切な情報発信を行うことで培養肉の受容性は向上するでしょう。
代替魚の購入方法
代替魚を日本で購入する方法について紹介します。
植物性代替魚は商品化が進んでいるため、日本でも購入できます。
しかし一方で、培養魚は世界各国で大量生産に向けて研究を進めているところです。
そのため、一般消費者が購入することはできません。
以下に日本で植物性代替魚を販売している3社を比較し、表にまとめました。
各社の特徴については次の章にまとめているので参照してください。
商品数 | 送料 | 価格 | |
あづまフーズ | まぐろ、サーモン、イカ | 1140円~1910円 1万円以上で送料無料 | 990円/個 |
ネクストミーツ | 焼肉、牛丼、チキン、バーガーなど約9種類 | 基本送料850円8000円以上で無料 | 320~770円/食 |
DAIZ | 餃子、ハンバーグ、から揚げ、ツナの4種類 (企業向けのみ) | なし | なし |
代替魚の開発会社
動物性たんぱく質のかわりに、植物性の原料やその他の原料を使用して作ったタンパク質を代替タンパクと呼んでいます。
この代替タンパク市場において、代替魚のシェアは1%とまだまだ少ないです。
しかし世界各国には約25社の企業が代替魚の開発・販売を行っています。
その中でも主に、培養魚と植物性代替魚の開発を行っている企業を紹介します。
培養魚の開発会社
魚の細胞から切り身を作り出す培養魚は、実用化に向けて世界各国で研究・開発が行われています。
北アメリカやヨーロッパを中心に世界各地にある開発会社を4社紹介していきます。
米:ブルーナル(BlueNalu)
BlueNaluは2017年に設立されたアメリア・カリフォルニアを拠点とし、魚の細胞の培養から切り身を作った世界初の企業です。
持続可能な、安全かつおいしい水産物を届けることを理念に、ぶり、本まぐろ、シイラ、レッドスナッパーなどの培養魚を開発しています。
2021年には代替魚の開発資金としては最大の6000万ドル(約62億円)を調達しました。今後は、培養魚の商用化に向けた工場を建設し、飲食店でのテスト販売も計画しています。
中:アバント・ミーツ(Avant Meats)
Avant Meatsは2018年に設立された香港の企業です。
メインターゲットは中国で、理念として地元の需要を満たすことを掲げています。
なぜなら、中国は魚介類の消費量が世界で最も多い国であり、培養魚をターゲットとした企業がまだまだ少ないからです。
培養魚の消費が増えることで、危機に瀕している海洋生態系に歯止めをかけたいという創業者の考えがあるのです。
<h4>シンガポール:ショーク・ミーツ(Shiok Meats)
Shiok Meatsは2018年に設立されたシンガポールの企業です。
エビ培養肉の開発・販売に特化している世界初の企業でもあります。
エビ培養肉製品は1つにつき300ドルとコストが高いことがネックとなり普及が進んでいませんでした。
しかし、同社は2021年までに50ドル/kgまでコストを引き下げることを目標とし、2022年には製造工場を本格的に稼働させることを計画しています。
このような甲殻類の培養肉製造工場の稼働は世界初の試みです。
<h4>米:ワイルドタイプ(wildtype)
Wild Typeは2016年に設立されたアメリカ・サンフランシスコを拠点とする企業です。
他社の多くはマグロの培養魚の開発を行っているため、培養サーモンの研究をしているWild Typeには世界でも競合がいません。
2021年秋口、サンフランシスコに新しく工場を建設し、見学や培養サーモンの試食もできるようになっています。
Wild Typeは今後、大量生産を目標としており、いずれは外食産業や小売りチェーン店への販売も視野にいれています。
植物性代替魚の開発会社
100%植物性のたんぱく質によって作られた植物性代替魚は、商品化され世界各国で売り上げを伸ばしています。
なぜ培養魚と違い、植物性代替魚は大量生産が進み商品化されているのか。
それは、植物性代替魚の開発前に、植物性タンパク質を使用して作られた代替肉の開発が進み商品化に至っている企業がたくさんあるからです。
代替肉の販売拡大だけでなく、植物性代替魚の開発・商品化を行っている企業を5社紹介します。
日:ネクストミーツ
2017年に共同創業者2名で立ち上げ、2020年に法人化した日本発のベンチャー企業で、現在は海外10か国以上に進出しています。
「地球を終わらせない」を理念に、代替肉を主な商品として掲げて事業を展開しています。
これまで、100%植物性由来の原料で作られた、世界初の焼肉用フェイクミート(代替肉)や、牛丼・チキン・バーガーなどを開発しています。
2021年10月には植物性代替魚の「NEXTツナ」を発売しました。
缶タイプで手軽に食べられますし、保存期間は2年と長期間で非常食にもぴったりです。
日:あづまフーズ
昭和58年に設立された日本の会社で、生鮮加工食品の製造・卸売・貿易を主に行っている会社です。
「常に新しい食文化の刷新を考え続ける」という経営理念のもと、さまざまな生鮮食品を取り扱っています。
2021年にシーフードブランド「GREEN SURF」を展開し、植物性代替魚であるマグロ・サーモン・イカの販売を開始しました。(2021年11月現在、品切れとなっています)
日:DAIZ
2015年に設立された会社で、植物肉(Plant-based Meat)の開発・生産・販売を行っている企業です。
今までの代替肉には味と食感の違和感や、大豆特有の青臭さ、肉と比較したときの栄養価の低さなどの課題がありました。
しかし、DAIZは独自技術により、これらの問題を解決させた「ミラクルミート」を製造し、新商品の開発や販売拡大をおこなっています。
2021年11月には物語コーポレーションと資本業務提携をし、焼き肉きんぐで代替肉メニューの展開を行うと発表しています。
米:グットキャッチ(Good Catch)
Good Catchは2016年に設立されたアメリカの企業です。
100%植物材料を使用して、ツナ・クラブケーキ・バーガー用のフィッシュパテを開発・販売しています。
6種類の豆を独自の比率でブレンドして、そっくりな食感を作り出しています。
さらに、海藻由来のオイルからDHAやオメガ3脂肪酸を抽出し混ぜ込んでいるため、栄養面でも魚に近いものを販売しています。
これらの商品は2020年にはイギリス・カナダ・オランダ・スペインと販売地域を拡大しています。
スウェーデン:フックドフーズ(Hooked)
Hookedはスウェーデンのストックホルムで2019年に設立された企業で、「Toona」と「Salmoon」の2つの商品を開発しています。
大豆由来のプロテインを使用し、匂いを再現するためにDHAやEPAが豊富な藻油も混ぜこんでつくられた、細長く裂かれた形状の、100%植物性由来のサーモンとツナです。
2021年後半にはヨーロッパを中心とした海外展開を計画しています。