畜産業による地球温暖化への加速や人口増加によるたんぱく質不足の解決が急務となっている今。昆虫食への注目が高まっています。
この記事で解説する昆虫食のメリットを知ることで、なぜ地球温暖化やたんぱく質不足を解決できるのか一瞬で理解することができます。
昆虫食とは
昆虫食とは、昆虫を食べることです。
今では安定した畜産業の普及とともに、昆虫由来のたんぱく質の需要が激減していますが、私たちは昆虫を美味しく食べてきた歴史があります。
昆虫食はいつから?歴史はとても深い
はるか昔から人類は、昆虫を貴重なたんぱく源として食べてきました。
現在では、東南アジアやアフリカの露店で、肉や魚と一緒にコオロギやイナゴ、タガメなどが売られているイメージが強い一方で、中国や日本などでも昆虫食は身近でした。
いつから昆虫が食べられてきたかは諸説ありますが、中国では約3,000年前の周の時代において、セミやハチ、アリなどが食料として利用されていた記録が残されています。
日本においても、稲作の普及とともに害虫であるイナゴを栄養源として食べていたり、養蚕の広まりとともにカイコ食が楽しまれてきました。平安時代に書かれた薬物辞典「本草和名」に、イナゴを薬用として食べていた記録があります。
昆虫は私たちの健康を太古から支えてきた重要な食料といえます。
昆虫食のメリットとは。なぜフードテックとしても注目?
昆虫食には様々なメリットがあり、フードテックといった観点からも注目を集めるようになっています。
昆虫食が普及することによるメリットを一文でまとめると、「環境に優しく養殖可能であり豊富な栄養素を含むため、地球温暖化や食料危機への解決につながる」といえるでしょう。
環境に優しく養殖可能で地球温暖化の解決に
昆虫は、卵をたくさん産み、成長に必要な水や飼料の量が少なく成長スピードが早いため、養殖を行う中で得られるメリットがたくさんあります。
温室効果ガスの排出量が少ない
昆虫による温室効果ガスの排出量は低いです。例えば、ブタの生産に比べてミルワームは10〜100分の1の温室効果ガスの排出で生産できるといわれています。
必要となる水や飼料の量が少ない
昆虫は、飼料変換効率が高いです。
昆虫の肉1kgの生産に飼料2kgのみ必要なのに対し、家畜牛肉を1kgを生産するためには飼料8kgが必要といわれています。
また家畜牛は、たくさんの飼料を必要とするため、この飼料を生産するために多く水を消費しています。
2004年のPimentelらの試算によると、1kgの肉を生産する場合に必要な水の量は家畜牛肉は、22000Lです。対して、コオロギは420Lと少ない水の消費で生産が可能です。
省スペースで生産が可能
昆虫の養殖は、少ない土地利用面積かつ高密度での生産が可能です。
家畜牛と比較してミルワームタンパク質1㎏あたりの土地利用面積は、約8分の1です。
家畜牛の飼育のために必要な広い牧草地が不要で、昆虫の養殖では森林破壊を行わず良質なたんぱく質を得ることができます。
食料危機による栄養不足を解決できる
昆虫には、たんぱく質だけでなくさまざまな栄養成分を含むため、今後の人口増加による食料危機の問題を解決できる食材になるでしょう。
豊富なタンパク質を含む
昆虫のたんぱく質含有量は非常に高いです。
イナゴは乾燥重量の68%をたんぱく質で占め、バッタ類では50%以上を含みます。
また、昆虫のたんぱく質には、小麦や米などの植物に少ないアミノ酸を多く含むため、優秀なたんぱく質といえます。
メチオニン、ヒスチジン、トリプトファンなどは少ないですが、バリン、ロイシン、イソロイシン、リジン、スレオニンが多く含みます。
キチン質を含み腸内環境の改善に
昆虫には、エビやカニといった甲殻類に含まれるキチン質を多く含みます。
キチン質は、不水溶性食物繊維で腸内環境を整えてくれる栄養素です。悪玉コレステロールの低下や動脈硬化の予防など、生活習慣病の改善が期待できます。
水分を吸収する作用があるので、水分と一緒に食べることで胃腸の粘膜の保護や空腹感を抑えることもできます。
若い世代を中心に食物繊維の摂取量が減っている現代において、昆虫は重要な食材になるでしょう。
企業とって昆虫食に取り組むメリット
企業にとっても昆虫食に取り組むことで得られるメリットは多々あります。
SDGsの取り組みに大きく貢献できる
昆虫食に取り組むことで企業イメージの向上につながるでしょう。
昆虫食のメリットとして取り上げた、「環境に優しく養殖可能かつ豊富な栄養素を含む」要素は、SDGsの目標の達成に直結することがわかります。
昆虫食の普及により取り組めるSDGsの目標は以下の通りです。
- 目標2【飢餓をゼロに】
- 目標6【安全な水とトイレを世界中へ】
- 目標13【気候変動に具体的な対策を】
- 目標15【陸の豊かさも守ろう】
そのほかにも、雇用の創出による貧困を無くす目標1にもつながるなど、昆虫食の普及はさまざまなSDGsの理念に合致します。
昆虫食市場は拡大中で将来性がある
企業にとって市場規模の大きな昆虫食に取り組むことは、生産や販売コスト低減など規模の経済性メリットも期待できるでしょう。
FAO(国際連合食糧農業機関)の報告の発表以来、世界中で昆虫食へ取り組む動きが起こっています。
日本能率協会総合研究所が2020年に公開しているレポートでは、世界における昆虫食市場規模が2019年の70億円から、2025年には1000億円に達する予測を出しています。
実際、韓国政府はミルワームなどを食品と認め、2020年に昆虫食市場を年間200億円以上に成長させることを目指しています。
ベルギーでは、トノサマバッタなどを食品として認め、昆虫ハンバーグの販売が開始されています。
このように世界中で昆虫食に関する法改正が行われており、より一層世界中で昆虫食が普及することが予測でき、市場規模は拡大していくでしょう。
昆虫食を始める前に気になるQ&A
Q.美味しい昆虫の種類は何がある?
FAOの報告によると、世界で食べられている昆虫は1,900種類以上とされています。
そのうち、日本では大正時代より55種類の昆虫を食べていた記録が残されており、イナゴやスズメバチ類の幼虫は美味しく食べることができます。
また最近、コオロギのパウダーを使用したプロテインバーやスナックが流通しており、昆虫を感じることなく昆虫食を楽しむことができるようになっています。
Q.普及率は?昆虫食しても恥ずかしくない?
世界では、昆虫食の普及率は25%程度です、全人口75億人の4分の1である約20億人が昆虫を食べています。日本トレンドリサーチの調査によると、日本では10人に3人が昆虫を食べたことがあるという結果が出ています。
昆虫食に関する理解は深まりつつあります。
Q.筋トレやダイエットとしても良い?
昆虫には筋トレに効果的なアミノ酸を多く含み、相性が抜群です。
食用昆虫の中でもコオロギのたんぱく質には、必須アミノ酸であるバリン・ロイシン・イソロイシンがホエイたんぱくの1.5倍以上も含まれています。
バリン・ロイシン・イソロイシンは、筋肉の分解を抑え、トレーニング効果を高める効果があるとされており、筋トレの必需品です。
一方で、カロリーについては昆虫100gと大豆200gがほぼ同程度という結果からも、高カロリーになりがちな食材であることがわかります。
ダイエットとして活用する際は、注意が必要ですね。
Q.昆虫食の安全性は大丈夫?
食用昆虫の注意点やデメリットを理解することで、安全に昆虫食を楽しむことができます。
特に生で食べずしっかりと加熱することや、甲殻類アレルギーの方は注意が必要です。
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