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コオロギ鈴木研究室

日本の叡智がいま結集。超加速している「誰も飢えさせない」昆虫が支える世界に迫る

2013年のFAOの報告以来、昆虫食への関心は、健康・環境意識の高い欧米を中心に高まっている。

2018年には、昆虫食をノヴェルフード(新規食品)としてEUが明記したことで、市場を後押しした。

市場規模は、2019年度の70億円から2025年には1000億円規模に達すると予測され、急速に昆虫食が広まることが期待されている。

このようなゲームチェンジの時期、日本も人々を魅了する野心的な目標(ムーンショット目標)に昆虫食を位置付け動き出している。

今回、このムーンショットプロジェクトに参加している東京農工大学の鈴木丈詞先生にお話を聞いてきた。

──食用昆虫の中でもコオロギになぜ注目しているのでしょうか?

たしかに昆虫食といっても様々で、およそ1,900種類の昆虫が世界中で食されているといわれています。

その中でも、コオロギは簡単かつ効率的に飼育できる昆虫です。世界人口の増加に伴い生じるたんぱく質不足の解消や既存の食文化との融合に向けて手軽に食用昆虫を入手できる仕組み、つまり大量生産のし易さが重要になってきます。

コオロギは、閉鎖環境での飼育が可能であることや、蛹を介した変態プロセスが無いため、餌や飼育設備を簡易化することができます。

また、東南アジアでは伝統的にコオロギ生産農家が存在しているため、生産現場で培われてきた知見を活かすこともできますね。

閉鎖環境の作り易さ飼育設備の簡易性メタモルフォーゼの管理飼育情報の入手
コオロギ◯単一環境◎孵化・脱皮のみ
カイコ△仕切り×完全変態◎養蚕情報
タガメ×両生環境◯不完全変態
ハチノコ××花粉・蜜環境×完全変態◎養蜂情報
引用:「動物性タンパク質源である昆虫食のエネルギー的可能性」より引用しFoodTechHub編集部で一部改変

──ムーンショットプロジェクトでコオロギ研究が目指す姿について教えてください。

本プロジェクトにおけるキーワードは、「循環型食料生産システム」です。新しいたんぱく質源として利益を与えるだけでなく、従来の人々が作り上げてきた家畜や農作物とも互恵的な関係を築くことを目指しています。

プロジェクトの研究項目には、コオロギの育種や、安定的かつ省エネルギーな生産システムの開発などがあります。また現在、家畜や養魚用の飼料の主要なタンパク質源は魚粉ですが、虫粉や虫での代替も検討しています。

もちろん、家畜用の飼料としてだけでなく、私たちの食卓に並ぶ食材としての活用方法も開発中です。

出典:ムーンショット型農林水産研究開発事業ホームページ

──図には「宇宙進出要素技術開発」とありますが、なぜ宇宙を視野に入れているのでしょうか?

これから食料危機を迎える中で、条件の厳しい寒冷地や乾燥地、痩せた土地での運用も視野にいれなければなりません。

そのような中で、条件が最も厳しい宇宙環境での循環型食料生産システムを見据えて開発を行うことで、社会実装により近づくのではないかと考えています。

──日本はコオロギ研究で世界をリードしていけるのでしょうか?

日本のコオロギ研究は歴史が長く、世界を牽引できるテーマです。たとえば、日本のコオロギ研究の先駆者の一人である故正木進三先生(弘前大学名誉教授)の功績があります。

正木先生は、昆虫の季節適応と種分化に関する研究に取り組まれ、コオロギの体サイズにおける「逆ベルクマンの法則」を発見されるなど、インパクトのある多数の業績の他、教育者としても多くの研究者を輩出されました。また、休眠性の人為選択で、研究のためにコオロギを数十世代も飼育試験を続けたことも有名で、コオロギ類でこれほど長い継続研究は世界的にも珍しいです。

このように日本はコオロギに関する学術的知見の蓄積や研究者が多いというアドバンテージがあります。

──鈴木先生の研究内容について教えてください。

持続可能なコオロギ用の飼料開発や、設置場所を選ばず省エネルギーなコオロギ生産システムの開発を行っています。

一つ目のコオロギ用の飼料開発についてですが、東南アジアでは、コオロギ生産コストの多くが飼料費です。また、魚粉を含む養鶏飼料をそのまま用いているところが多いです。

このままでは、魚粉代替どころか、昆虫生産によって魚粉の大量消費に拍車をかけてしまいます。

そのため、コストを下げ、かつ持続可能なコオロギ生産を進めていく上でも、農作物残渣や食品製造副産物をコオロギの飼料にできないか検討しています。

現状、養鶏飼料を用いた場合と比較して、発育や成長が抑制されることが多いですが、農作物残渣や食品製造副産物の組み合わせによる改善を目指しています。

もう一つの研究は、場所を選ばず省エネルギーな生産システムの開発です。現状、コオロギ生産システムは標準化されていないことや、寒冷期・寒冷地における暖房コストが高いなどの課題があります。

コオロギ生産を標準化するために、生産に関わる投入エネルギーを測定し、エネルギーの利用効率を可視化することに取り組んでいます。可視化により、目標値が明確になり、生産工程や設備の改善による省エネルギー化が期待できます。

──最後に、鈴木先生がめざす昆虫食の世界についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

ムーンショットプロジェクトでは、コオロギの他、ミズアブやシロアリに焦点を当てて研究開発を進めていますが、昆虫は多様であり、その他にも食料や飼料原料等の応用に適した昆虫はたくさん存在すると考えています。

日本の寿司や天ぷらと同じように、さまざまな昆虫を安全かつ豊かな食材として楽しむ新たな食文化への展開や、人の好みに応じた食の選択肢の多様化に、研究開発を通して少しでも貢献できればと思います。そのような未来を想像するとワクワクしますね。

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